
「ルックバック」より引用©集英社 藤本タツキ 製作スタジオドリアン
※この記事には物語のネタバレが含まれています
【ルックバック】はチェンソーマン、ファイヤパンチなどで知られる鬼才・藤本タツキ先生による短編漫画なんですが、これまでの作品において思う存分披露されたバイオレンスやサイコぶりは鳴りをひそめて二人の少女が漫画家を目指して共同で夢を目指すという王道的なお話になっています
かといって先生のブッ飛んだ構図やエキセントリックな台詞が完全に封印されたということではないため、割と一般よりな作風に見せておいて独自性もアピールするという一筋縄ではいかない漫画に仕上がった印象を受けました
本作品はアニメ映画として6月末に劇場公開されたのですがいかんせん引き伸ばせるような場面もないためオリジナルシーンを加えて尺を引き伸ばすつもりかと思ったのですが、公開時間はおよそ58分程度であるためほぼ原作をなぞる感じで映像化されており、漫画を読んでいない方でも内容がおおよそ把握できる感じになっております
【あらすじ】
小学生4年の藤野は漫画を書くことが好きな少女で学年新聞に載せていたが、しばらくしてから同学年でひきこもりの京本が新聞に載せた漫画の画力の高さから屈辱を覚え絵の上達に心血を注ぐことになる
月日は流れ、担任から卒業証書を京本に届けるように頼まれた藤野は渋々彼女の家に向かうが、廊下に置かれたスケッチブックの数に圧倒され彼女と合ってしまう
中学に進学し、なんやかんやで意気投合した2人は共同で漫画を書き始め、その作品は準入選しいくつかの読み切りを雑誌で掲載するも高校卒業を機に二人の進路は分かれ、藤野は漫画連載を続けて京本は美大に通うようになる
藤野が連載している漫画が軌道に乗りアニメ化も決定するほど人生は順調だったがそんな彼女にあるニュースがもたらされる
それはなんと京本が通っている美大に不審者が侵入し、12人もの犠牲者を出した無差別殺人事件であった…

「ルックバック」より引用©集英社 藤本タツキ
まさかの映像化…
本作品は映像化するにも58分の上映時間しか尺がなく原作の巻数が1巻しかないのでどうやって引き伸ばすのかと思っていたら上記の藤野が書いた冒頭の四コマ漫画が映像化されていました
クオリティも高く導入部分としても悪くない為か逆に感心してしまった程です
というか本映画は本編の尺を特にカットすることもなく煩わしくない程度の保管もなされているので、グロテスクやバイオレンスな描写が多い藤本作品の中でも普通におすすめ出来る出来に仕上がっていると思いました
進路の分かれる2人
藤野と京本は高校までは2人で雑誌に人物と背景に分担して共同でいくつかの読み切りを連載します
しかし京本は作中でほぼ背景しか書いておらず物語が後半に入るタイミングでとある美術の本に感銘を受けて藤野と別れて美大に行く決心をします
この出来事は引きこもりだった彼女の成長を描くと同時に後の悲劇に繋がってしまうのですが…
そんな彼女が最後に藤野を主人公にした4コマ漫画を画風まで模して描いたのは感慨深いですね
現実の事件とのリンク

「ルックバック」より引用©集英社 藤本タツキ
京本は美大にいる時に襲われるシーンは通り魔が「元々オレのパクったんだろ⁉」と支離滅裂な根拠から自分の作品を盗作した旨の発言をし、あからさまに「京都アニメーション放火殺人事件」の青葉真司容疑者を連想させるものになっています
なお、この前後の台詞は本誌掲載時と単行本化で二度差し替えられており、最初の変更時はネットニュースになるほど話題で当時作品を知らなかった筆者も目にするほどでした。差し換えられた台詞は「絵ばっかり描いて社会の役に立たねぇくせに」と青葉容疑者から離れたニュアンスのものになりましたが、単行本では更に差し替えられ上記の台詞になるものの劇場版では最初の台詞に戻っています
しかしながら、現実の事件を彷彿とさせる描写は安易であるとの批判もあるようです

「ルックバック」より引用©集英社 藤本タツキ
最後の描写
事件後に藤野は京本の部屋に行き、卒業証書を渡しに行った際に書いた漫画を破り捨てて、その切れ端が京本の手に渡り2人が出会うことはなくとも美術の本に感銘を受けた彼女は美大に通い、通り魔の襲撃を受けるのですが今度は藤野が京本を救います
藤野は渾身の飛び蹴りとパンチで殺人犯をノックアウトしながらも怪我をしてしまい救急車に運ばれながら京本と連絡先を交換します(この世界線?では二人は初対面の為)
ここら編の描写はかなり読み手の解釈に委ねられるような感じになっておりWikipediaなどは前述の漫画の切れ端を京本が手に取ったあたりから世界が分岐(?)したような解説がなされていますが、筆者の考えとしては親友を無差別殺人で失った藤野の自責の念からくる妄想であり、もし彼女が事件の際に殺人犯に襲われる前の京本を救えることが出来たら…という空想の描写と捉えています
しかし後のページでは藤野は主のいなくなった部屋で自分が掲載していた漫画を京本が全て保有していた事を知って涙を流し、部屋から出ていった後に仕事部屋に戻る(=漫画の続きを描く)ラストて物語が締められます
事件の描写が京アニ事件を彷彿とさせるものなら、最後の藤野の描写は被害者達へのエールを思わせるものになっていると感じました
原作からして台詞だけではなく描写でわかりやすく描写しており、劇場版でも程よい補完によって楽しめる作品になっておりますので尺は短いですがオスス出来る作品となっています